ディオスコリデスというのは、ローマ時代の人物で、薬物、植物について記録をしていた人です。おそらく従軍の医師だったと考えられています。
古くから使われている薬は、当然、天然の植物、動物、さらには鉱物などを用いていました。いまでも使われているものもあります。
(もちろん、今は薬としては効果がないとわかってきていて、使われていないものもあります)
そのなかでも、その昔からいまでも使われている薬物というのは、何百年、何千年の歴史があってその安全性や毒性が確認され、あるいは検証の結果、効能効果、使い方が変化してきた歴史があります。
なので、古くからあって、今も使われている薬というのは、信頼がおける薬物という事になるのです。
東洋では、医薬のことを記録、分類した本に「神農本草書」(しんのうほんぞうきょう)があります。ここには生薬、薬物、漢方についての記録があり、それが成立したのは西暦100年前後とされています。
さらに、1578年には漢方、生薬の百科事典である「本草綱目」(ほんぞうこうもく)が成立しています。
一方で西洋では、このディオスコリデスが記録した薬の百科事典である「ディオスコリデス植物誌」があります。
この本は西洋の生薬、薬学、医学のもっとも古くて信頼のおける本で、ヨーロッパで植物、医学に影響を与えた本です。このディオスコリデス薬物誌が成立したとされているのも1世紀後半(西暦50年から100年)とされています。
ディオスコリデスの研究の先達である大槻真一郎さんは、このディオスコリデス植物誌を「西洋本草綱目」とされています。
翻訳というと、どこかの古くからある図書館の収蔵庫や、大学の研究室にその本があって、それを日本語にしました、というイメージがあるのですが、そうではないのです。
古い本なので、その原本が残っているのではなく、その写本がいくつか残っているのです。
その写本も、その時代によってあるいは、書き手によってバージョンがいくつかあり、どれが最も信頼できるものかを検討する必要があります。
それは、生物の系統樹(けいとうじゅ)のようです。
次に、このディオスコリデスの記録した植物(あるいは動物、鉱物)が、どの植物をさすのか、さらにさらに、それが日本におけるどの種であるか、ということを決めていくのです。
さらに、病気の概念や、度量衡(長さ、重さなどの基準)の違い、発音をどう日本語にするか、など繊細でしかも、大量のお仕事になると思うのです。
なので、単に昔の本を翻訳をしました、ということではないのです。
有り難いことに索引が豊富。
つまり、ギリシア語、ラテン語の植物名を知らなくても、「この薬、植物ってどう扱われていたのかな?」を調べることができるのです。
訳注をたくさんつけていただいたのも、理解を深めることができます。
翻訳された岸本良彦さんは早稲田大学の東洋哲学卒業したあと、今は明治薬科大学の名誉教授をされています。
語学、しかも古典の言葉にの翻訳のうえに、専門の知識が必要なお仕事であり、これが日本語で読めるというのは、とても幸せなことだと思うのです。
さらに、これを出版して手に届くようにしていただいた出版社のご尽力もすばらしいと思います。
こういった本が出版される幸せ。ありがとうございます。
これからもこの幸せが続いていきますよう。みなさん、買ってね。
おもしろいページを見つけました。日本植物研究の歴史 小石川植物園300年の歩み ディオスコリデスと植物園
(↑のサイトには牧野富太郎先生のことも書かれているので、ついつい読み込んでしまう)
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八坂書房の書籍詳細 ディオスコリデス薬物誌