辰巳芳子さんの「レシピ本」
思えば、レシピ本って手に取る機会がなくなりました。
「今日、夕飯、どうしよう」と思う時は、スマホでレシピをググります。
あ、コレコレ、と読んだレシピは、そのときはちゃんと読みますが、それでおしまい。
誰が書いたのかは、憶えていませんし、そもそも、どのサイトかもわかりません。
私の書いた記事も、そうやって読みすてられる事も多いこともわかっているし、書かれた方には、申し訳ないのですが、消費される情報が、いまネットにはあふれています。
でも、この辰巳さんの本は、日々、消費される情報とは、違います。
この辰巳さんの示される「レシピ」は、料理を通じて、その先にある生きていく、食べて生命を養っていく姿勢を示す「レシピ」です。
2002年に出版された「あなたのために」は、スープの大きな役割について、驚き、喜びながら読ませていただきました。
スープは人間が生まれてきて、母乳の次に口にするもの、そして命を保つ最後まで口にできるものです。
私事で申し訳ないのですが、当時、家族に食べられない者がいたので、何回も助けてもらいました。
といっても、辰巳さんの示されるスープには、とうてい届かない事もわかっていました。
その私と同じような思いをされている方が多いことは、辰巳さんはわかっていらしたようです。
前書きから。
「スープを前についてこられない方々がいらっしゃいます」とありました。それ、私だ。
そして、
「古来、馴染んできた『お粥、おじや、重湯』は立派なポタージュではないか」
「これなら誰でも、どなたでもスープは作れます。生死のお相手がおできになります。お喜びください。私もうれしゅうございます」
そうして書かれたのが、この「続 あなたのために」
副題は「お粥は日本のポタージュです」
本の最後近くにある言葉。
「人が愛ゆえに、作ったり、食べさせたりする日々。過ぎてしまえばなんと短いことでしょう」
2002年の最初の辰巳さんの本で、私が「あなたのために」作ったスープを口にした者は、すでにこの世にありません。
「生死の相手をする」という、その日々のなかにいると、果てしない勝ちめのない戦いに疲れて、息をきらせていた日々でしたが、こうして振りかえると、あっという間の時間でした。
過ぎてしまう日々に寄り添ってくれる、暮らしのレシピ本です。
辰巳さんのレシピは、「今日の料理」でも見る事ができます。
美味しいです!
NHK 今日の料理 辰巳芳子さんの料理レシピ