2020年4月から占星術家SUGARさんを中心にしたサビアンに関する研究会「谷間・オブ・サビアン」に参加しています。
研究員による発表交流会である「谷間の歌会」というZoomイベントに自分が発表したものを加筆してのせます。(現在は研究会は休会で開催されていません)
2021年8月 サビアン研究会自体は山羊座前半を解説中です。
残暑の季節に、冬至という最も陽が短い時期の俳句です。
「火を焚くや枯野の沖を誰か過ぐ」能村登四郎(のむらとしろう)
俳句には季節を示す言葉、季語があるのですが、この俳句の季語は焚き火(たきび)で冬です。
能村登四郎さんは、第二次世界大戦をはさんで教師として仕事をしながら短歌や俳句を詠んだあと、40年の教職を経てから、俳人として専業された方です。
千葉県市川市に長く住まわれていました。市川は江戸川をはさんで、東京の向かい側の千葉県です。
その、江戸川の東京側には葛飾、柴又があります。
あの「フーテンの寅」の柴又です。
このあたりは、江戸川の土手があって、なんとなくのんびりとしています。
一方で、万葉に歌われた真間の手児奈や、伊藤左千夫の野菊の墓といった古くから俳句や短歌が詠まれた土地柄です。
真間の手児奈は、自分を巡って男たちが争うので、当時は入り江になっていた真間で、入水して自死してしまった(ザックリ!)という美女で、万葉の時代にはよく知られていて、万葉集にも歌が詠まれています。
その市川の野原で冬、たき火をしている。なんとなく顔や手が温かくなってくる。
そして、短い冬の日が暮れかけてきた。ふと、そのたき火の向こう側を誰かが通っていくような気配がした。
暮れかけてきたので、誰かわからない。そもそも、人かどうかもわからない。
そんなイメージ。
でも、実は全くのイメージだけで、実際にたき火をしていないかもしれない。
そして、この向こうを行く人物も、実在の人物ではない。
枯れ野を行くのは松尾芭蕉ではないか。
「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」の芭蕉ではないでしょうか。
ここで俳句という火をつないでいる自分だけれど、遠くを行く芭蕉の気配を追ってきたのかもしれない。
すでに自分も老いてきている。
この火を誰かに渡す前に命が枯れてしまうのではないか。
また、芭蕉の背中に追いつく前に、彼は過ぎていってしまったのではないか。
かもしれない。
また、能村さんはこんな火も詠っています。
「今思へば皆遠火事(みなとおかじ)のごとくなり」
彼は、教師を長く勤めたあと老年からの専業俳人となった人です。
第二次世界大戦、太平洋戦争をまたいで教師をしていました。
この火は、戦火かもしれない。
戦場の火は何を燃やしていたのでしょうか。
乾いた木が燃え立つ時のにおいかもしれない。火薬と肉が焼けるにおいかもしれない。
そんな地獄の火も遠いように思う。
太陽は山羊座14度、蠍座11度の木星とトライン。
太陽山羊14度「みかげ石に彫られた、古代のレリーフ」
木星蠍11度「おぼれた男」
太陽は俳句の歴史をきざみ、木星は現実の向こう側に溺れかけている誰かに手をさしのべる。
山羊座14度の「レリーフ」のように、芭蕉からの過去からの俳句というレリーフを受け継いで、掘り続けている。
また、レリーフについては、こんな俳句をあげたいと思います。
「春ひとり槍投げて槍に歩み寄る」
校庭でやり投げをする学生を見ている能村さんの教師としての視線を感じます。
ローマのレリーフのようなポーズをとった学生がやり投げしている。
投げた槍を何度も拾いにいく。それは、ストイックにひとりで練習をしている風景。
それを遠くから見守っている教師の視線。
また、最初の句「火を焚くや枯野の沖を誰か過ぐ」の火が、現実ともうつつともわからない世界だとしたら、
「風邪衾(ふすま)かすかに重し吾子が踏む」
もまた、現実ともうつつともわからない世界。
風邪を引いて布団をかぶっているけど足のあたりが少し重くなったのは、我が子が踏んでいったからだろうという意味で、熱にちょっとうなされている状況なのだと思われます。
でも、彼は生まれて間もない次男を、翌年に6歳の長男を、それぞれ病気により相次いで失っています。
なので風邪で熱にうなされながら感じた重みは、実際の子供ではない子が足元に乗ってきたということかもしれません。
この発表をしたサビアン研究会では、能村登四郎さんのホロスコープの魚座の月の感受性からくる、夢かうつつともわからない感覚について、SUGARさんから指摘をされて、深く同意いたしました。
能村登四郎さんの創刊主宰された「沖俳句会」は現在、能村登四郎さんの三男である能村研三さんが主宰されています。
沖俳句会 https://www.oki-haiku.com/index.html
真間の手児奈 市川市公式サイト
野菊の墓 ウィキペディア
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