(以下 ネタバレあります)
最初は、政府という体制のウダウダから描かれます。
東日本大震災の時も、そうだったんだろうな、と思われる状況。
その何も決まらない政府が瓦解し、「覚醒」した現場が命をかけて戦って、成果を得るエンディング。
現場の作戦が成功し、ゴジラは、凍結され、移動をやめ、今回のストーリーが終わります。
覚醒した現場が頑張って、マッチョな作戦遂行が描かれて、ハッピーエンドで終わるストーリー、に見えるが、そうではないと思います。
ホントの現場は、描かれていないし、次を予感させるエンディングです。
そもそも、この「現場」の人たちだって、国家公務員試験に合格しているエリートだし、二世議員で、先生と呼ばれる政治家の家のコだったりします。リアルな現場とは、違うと思います。
夢のない話で申し訳ないのですが、今のリアルな現場は、頑張りようがないくらい疲れてるし、無視されています。
シン・ゴジラでも、数多くのリアルな町や、避難する人々が登場しますが、むしろ、そちらがリアルな現場だと思います。
でも、彼らは、詳細な登場人物にはなっていません。それは、リアルな現場にいる大衆や、その暮らしが、こっぱみじんにされるから。
個人の背景や、生活がリアルだと、被害者を想像して、見ている側が、そこで立ち止まってしまうのです。
シン・ゴジラが通ったあとの、がれきの下から少し見える足で、充分、重いのです。
ここのがれきの下に、どれほどの人間が埋まっているのかは、東日本大震災、3.11の津波被害の映像の残像があるので、想像できるのです。
だから、あえて、ホントの現場は描かれていないのかもしれません。
リアルでない、といえば、庵野監督の女性像が、リアルな女性でないのも、いつものこと。
それが、予定調和のマッチョなストーリー、という印象を強めています。
男性が、たくさん出てくるし、わりとリアルなのに対し、シン・ゴジラでは、マッチョな女しか、登場しません。
アメリカの特使カヨコ・アン・パタースンは、ハイヒールにタイトスカートをはいて、いかにも男性が望む見かけで、中身は、がつがつの政治家だし、環境省課長補佐の尾頭ヒロミも、防衛大臣の花森麗子も女性性からは、遠い存在です。
かろうじてリアルなのは、片桐はいりが演じていたおばちゃんくらいです。
つつみむような母親のような女性といったら、いきなり、エヴァンゲリオンの綾波レイくらい飛躍します。
もっと現実的な女性は描けないのかなあと思って、庵野監督のチャートをみてみました。
これか、と思ったのは、彼のチャートの月。スッとんでて寂しそう。
太陽はパワーのある水星と金星を従えています。それに対し、月は不安定な感じがします。
月は、突拍子もないもの、異物に対する美を表現する獅子座天王星と、
たて社会や、伝統、規律を重んじる山羊座土星と組んでいます。
月は、感情や家庭、母を示しているのだけど、この月は、華やかな太陽に対して、寂しい感じがします。
パワーがあって使い勝手のいい金星や水星は、太陽に使われていて、仕事の才能が豊かなのに対し、感情やプライベートが、スッとんでいるのです。
この月にいま、天王星が乗っかっているので獅子座天王星が刺激されていて、独特の表現に磨きがかかっているんだけど。
この月を持っている庵野監督だから、女性もリアルでないのは、仕方ないのかもしれません。
その「現場」の内閣官房の矢口が中心となって、成功したヤシオリ作戦は、素戔嗚尊(スサノオノミコト)が、八岐大蛇(ヤマタオノオロチ)に飲ませた「八塩折之酒」(ヤシオリノサケ)に由来しています。
ヤシオリ作戦とは、それを実行する側、矢口側が素戔嗚尊であるという事です。
それは、矢口の、誇りというか、思い上がりを示すとともに、シン・ゴジラが、祟り神である、八岐大蛇であることを示しているのだと思います。
八岐大蛇は、その尾に草薙の剣を抱いており、八岐大蛇は、製鉄と深く関係しています。
このシン・ゴジラの完成形である第4形態以前、エラのような部分などから、血液が流れている描写があるのですが、これは、八岐大蛇の腹が血でただれている、ということと関連しています。八岐大蛇の血は、鉄の色でもあるのです。
また、シン・ゴジラの「シン」については、新、真、神、と、いろいろ言われているけど、私は、古代メソポタミアで信仰された、シン(Sîn)、月の神もあてたいと思います。古代メソポタミアでは、豊穣の神ですが、シン・ゴジラは、八岐大蛇で祟り神です。
八岐大蛇は、川と鉄の象徴でもあり、氾濫を繰り返したり、製鉄で川を汚すのですが、豊かな水と鉄という実りも与えてくれるのです。
祟り神は、荒ぶり、甚大な被害を与えるけれど、丁寧にお祀りをすると強力な守護神となります。
東京の神田明神の平将門、京都の八坂神社の午頭天王も、そうです。
シン・ゴジラは、放射性廃棄物をエサとしているので、その体内に、原子炉があるようなものです。
またシン・ゴジラに対する作戦のなかで、シン・ゴジラの体内で、新たな放射能物質、放射性元素が作られていることがわかります。
放射性廃棄物のプルトニウムの半減期は、2万4000年に対し、その半減期は20日。
そのため、シン・ゴジラの放射線に汚染された、東京の復興も見込みがつくのですが、シン・ゴジラは、原子炉とともに、放射能除去装置ももっているようなものです。
ヤシオリ作戦を指揮した矢口は、シン・ゴジラを凍結したあとは、現場を離れ、体制側、政府の中心となります。
シン・ゴジラは、東京駅上で凍結されています。
いつ再起動するかわからない原子炉が、東京駅にあるという事でもあり、放射性廃棄物のプルトニウムの半減期を2万4000年から、20日とする放射線物質の除去装置が、東京駅の真上にあるという事でもあります。
それは、大きな恐怖に違いないのですが、それを手に入れた、ということは、東京の、日本の守護にもなり得るのです。
凍結したシン・ゴジラがいる東京駅の目と鼻の先に、皇居があります。
写真は、東京駅からみた皇居。
皇居が、アメリカの核爆弾の投下目標から、はずれていたので、そこにおられるのはわかるのですが、まったく、陛下の動向は、描かれていません。ぽっかりとあいた聖地となっています。
思えば、この映画も中心がないのです。
ストーリーは一応あるんだけど、要は、シン・ゴジラが、歩いてるだけだし。
その次を感じさせて、終わっているし。
コアとなるテーマがない気がします。
だから、いいとか、悪いじゃなくて、そのために、その中心を観客全員が探っている気がするのです。
そのコアが、観客ひとりひとり、違うのですが、実は中心は、ないんじゃなでしょうか。
皇祖神の天照大神の神話の時代のように、祟り神のシン・ゴジラは、ぽっかりとあいた聖地の皇居の前で静かに凍結しています。
まずは、その人間のかたちの尾から、草薙の剣を取り出さなければいけないのです。それが、次に登場する「現場」の素戔嗚尊の最初の仕事。
シン・ゴジラとゴジラの恩返しについては、こちらの記事で。
シン・ゴジラ 公式サイト
シン・ゴジラ Blu-ray特別版3枚組
チャートは My Astro Chart さんで作りました。
神田明神の写真は、こちらの記事から。
皇居の写真は、こちらの東御苑の記事と、東京五社の記事から。