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阿・吽 (阿吽) 第七巻

この7巻の帯は、夢枕獏さんが書かれています。
大昔、出版されたばかりの獏さんの「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」を夢中で読んでいました。
そして、ン十年を経て、この阿・吽の単行本の帯に獏さんの言葉に再会しました。
希有の才能をもった作家さんたちと、何年、何十年と同じ時間を生きているという幸せを感じます。
ありがとうございます。

このエントリーでは、前のめりで思いっきりネタばれしますので、楽しみをとっておきたい方は、以下の記事はスルーしてください。

重い病に伏せる桓武帝の息を耳を傾けてきいているのは、怨霊となった弟の早良(さわら)親王。
桓武帝が息を引き取るのを、待っています。
流罪の途中で憤死して、もがいているので指の先がありません。
そして、まったく同じポーズで、父帝の口に耳をあてて、言葉を聞こうとしているのは、生きている皇子の安殿(あて)親王。
怨霊とまったく同じ構図で桓武帝に覆い被さっていて、安殿親王が生き霊となっているというのがわかります。
そして、源氏物語の六条御息所のように、生き霊は最も、メンドくさいのです。

しかし、安殿親王は、父帝を恨んでいるわけでも、殺そうとしているわけではないし、桓武帝も安殿親王を疎んでいるわけではないのです。
桓武帝は、すべてを「愛」する人「だけ」ですし、安殿親王は、愛し方、愛され方を知らない「だけ」です。
そのお互いが理解のできない「だけ」で、愛情が深い「だけ」
それ「だけ」。
でも、それが悲劇。

そして、耳をそばだてて、父帝の言葉を聞こうとする皇子に聞こえてきた声は、自分ではなく、最澄の名を呼んでいました。

「哀れなるかな、哀れなるかな、長眠の子。苦しいかな、痛ましいかな、狂酔の人」

その日本の都に最澄はもどってきます。
彼は、「天台の教えを広めるためなら」と言いつつ、その目的の達成がみえません。
それでも、彼は高雄山寺にて最初の公式な灌頂を行っています。
外は、龍が降らせた最澄の心に降るような涙の雨。
そして、空海を除いた、最澄の唯一の理解者として、オイシイところをもっていく空海の師である勤操(ごんぞう)

最澄の心の痛みは、唐の長安にいる空海にも届いています。

その空海は、恵果と対面し、密教の跡目をついでいきます。

恵果と空海の「面会」の場面は、ジャズのセッションのような、あるいはロックギターのリフのような緊張感と気持ちよさがあります。
そして、重厚。
具体的な言葉はないのですが、高村薫さんの「太陽を曳く馬」の僧同士の宗教論の場面を思い出しました。
その結果は、完全な理解の通じる相手、完全にわかることの気持ちよさ。

太陽を曳く馬

幼名に真魚という魚である空海は、恵果を飲み込んでいきます。

この巻でも、魚が重要な象徴になっています。
水底に沈む都は魚がその水を揺らしていますし、都と宮廷の暗い影に殺された女官は魚についばまれていて、長安では橘逸勢が船遊びをみており、視線の先には魚。

魚は龍になるものもいますし、陸にあがる魚もいるはずですが、今の空海は、貧弱な脚の生えた魚の姿となっています。
まだまだ、海のものとも、「空」のものとも言えないのです。

以前にも書いたのですが、言葉は異常な体験を、言葉にして、体系化して、着地するための重要なツールだと思うのです。
そして、空海は「文字を書いていると落ち着く」と言っています。
文字は、この世との着地点。
それが見えていると、空海は安心できるのかもしれません。

文字以外の空海の着地点、アンカーは、仲間たち。
一緒に入唐した橘逸勢であり、霊仙であり、長安でであったリィフォアであったり、白居易、アーラシュであったり。
彼らの背景には、水底にある平城京に対し、長安の美しい四季が展開しています。

そして、空海の灌頂の費用として、価値あるモノとして、売られる男前の女神、丹生都比売、にうつ様の髪。
彼女の髪は、辰砂(しんしゃ)のように赤かったのだろうか。

「哀れなるかな、哀れなるかな、長眠の子。苦しいかな、痛ましいかな、狂酔の人」

この言葉の前には、こうあるのです。
「それ仏法遙かにあらず、心中にして即ち近し。真如ほかにあらず、身をすてて何いずくんか求めん。迷悟我れに在れば、発心すれば即ち到る」

「しゃらくせえ」東京下町育ちの私には、そう聞こえてきます。
でも、真理です。

そして、また、それぞれの登場人物の衣装も、手のこんでいること。
文字で伝えるしかない私は、勢いこんでストーリーテラーの部分だけしか書かないのですが、おかざきさんの描写の細やかさ、美しさは実際に、ごらんになってください。

確か、和楽編集部のツイッターアカウントだったと思うのですが、「平成の日出処の天子!」と絶賛されています。
激しく同意するのですが、「陰陽師」と「日出処の天子」とともに、ミディアム三名作としたいと思います。

「陰陽師」の原作も、夢枕獏さん。
・・・ですが、「陰陽師」は、途中から、岡野玲子さんワールド。
もちろん、それを許す獏さんの原作のキャラあっての岡野ワールドです。
陰陽師

「日出処の天子」「陰陽師」「阿・吽」は、ミディアムマスターピースの三名作。
その最後のマスターピースのはまっていく瞬間を目撃できるのも、幸せなことです。

阿吽 7巻

1巻
2巻
3巻
4巻
5巻
6巻 についても、書いております。

日出処の天子については、こちらの記事で。

夢枕獏さんの空海については、ちょっと古いのだけど「空海曼荼羅」もおすすめします。

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